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節税ではなく繰延。しかもリスクが大きい。

個人の所得税の節税の為に、築古物件を購入して主に減価償却費で節税するというスキームがあります。

実際に単年で見れば所得税の圧縮にはつながるでしょう。

 

しかし、結論からいうとあくまで繰延であるだけで節税ではありません。

どんな不動産でも所有するだけでリスクが発生しますから、繰延だけの為にリスクを取るのは合理的ではないと私は考えています。

例題を参考にしながら説明します。

 

《例》

・購入者の年収:900万円以上

・購入物件:築22年の木造アパート

・価格:5,000万円(土地3,000万円、建物2,000万円)

 

築22年以上経過した木造物件であれば、最短で4年で償却することができます。

そもそも減価償却とは簡単にいうと、『長持ちするものはちょっとずつ経費にしましょう』ということです。

つまり、土地は永久になくならないので減価償却の対象外です。

 

5,000万円の物件を購入したとしても、減価償却できるのは建物代だけということになります。

築古物件ですから、建物代より土地代の方がほとんどの物件で大きな割合を占めるはずです。

仮に、土地代が3,000万円、建物代が2,000万円であれば2,000万円分しか減価償却できないということになります。

 

この物件を購入して4年間で2,000万円を減価償却費として経費計上すれば、1年で150万円、計600万円の経費計上ができます。

日本の税率は累進課税制度といって、簡単にいうと『お金持ちから税金をたくさん取る』という制度です。

年収900万円以上だと税率は33%、年収695以上900万円未満の税率は23%なので、減価償却費で年収を下げることで税率を10%下げることができます。

 

単純計算すると、何も購入しなかった場合は年収900万円の33%・297万円を1年で支払うことになります。

しかし、例題の物件を購入すると、900万円ー150万円=750万円の23%・150万円しか払わずに済みます。

これが4年続くので、差額147万円(297万円ー150万円)の4年ですので計588万円の節税になります。

 

ここまで聞くと節税が成立しているように思えますね。

 

しかし、この物件をそのまま持ち続けるのであれば良いですが、他のコラムでも何度も書いておりますが、そもそも築古物件は長期保有に向きません。

築古だと空室リスクも上がりますし、多額の修繕費用がかかったりとリスクやランニングコストが大きいからです。

 

よって、節税目的で不動産投資をした方のほとんどが減価償却が終わった後に売却することになります。

減価償却が終わった後ということは簿価は1円です。

 

つまり、仮に購入時と同じ5,000万円で売却したとすると、建物代は丸々課税されることになります。

保有期間5年未満の売却は短期譲渡となるので、税率は39.63%です。

つまり、2,000万円×39.63%=約792万円が課税されることになります。

 

この場合だと588万円を節税したのに792万円を支払うことになるので、204万円の損失になってしまいます。

当然、節税として成立していません。

 

ただし、保有期間が5年以上になると長期譲渡になるので、税率はぐっと下がって20.315%になります。

この場合、2,000万円×20.315%=約406万円になります。

つまり、588万円ー406万円=182万円の節税ということになります。

 

厳密にいうと、家賃収入は課税されたり、支払いの金利分は経費にできたり、細かなところは色々とあるのですがすべてを計算すると煩雑になってしまうので、簡易的な減価償却費だけで計算すると上記のようになります。

 

後者の長期譲渡のケースであれば節税は成立しているように思えます。

しかし、これはあくまで同じ金額で売れた時の話です。

 

購入時から5年経っているので多くの場合は売却価格も下がるでしょう。

そうなると、節税どころか損失が出てしまう可能性が高いです。

 

『いや、逆に売却時に相場が上がって高値で売れるかもしれないぞ!』と思う方もいるかもしれません。

確かにおっしゃる通り、不動産相場は年々上がり続けているのでその可能性は十分にあります。

しかし、それはあくまで『希望的観測』です。

それを言ってしまえば、相場が下がってしまい、安値でしか売れず損失が大きくなってしまう可能性もある訳ですから。

 

弊社は他のコラムでもお伝えしていますが、このような『だったらいいな』という考えは投資というより投機なので持つべきではないと考えています。

 

不動産投資での節税は、区分マンション投資などと同じように売却時に初めて成功か否かが確定する投資、つまり売却時の相場に大きな影響を受ける投機的な投資ということになります。

 

不動産投資はリスクが限りなく低いのが最大のメリットだと弊社では考えているので、このような大きなリスクが発生するのであればそもそも不動産投資ではなく違う投資をすべきだと思います。

 

よって、不動産投資での節税は成立しないと考えています。

しかし、これはあくまで所得税の話です。相続税の節税には大きな効果があります。

相続税については、またの機会に書こうと思います。

 

 

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